コラム

社会常識としての独占禁止法⑭ なぜO組は課徴金の「免除」を受けられなかったのか

文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)

 

前回↓↓のつづきです。
社会常識としての独占禁止法⑬ 課徴金の受け方~リニア談合事件をヒントに~

 

リニア談合事件で、O組は、公正取引委員会に対し自主的な違反報告(リニエンシー)を行ったために、課徴金の金額を45億円から32億円に「減額」されました。
13億円もの課徴金を免れることができたのですから、読者の方は、O組はリニエンシーにより大きな成果を得たと思われるかもしれません。

しかしながら、産経新聞の報道によれば、O組が真に狙っていたのは課徴金の「免除」であり、これに失敗して、30%の「減額」しか受けられなかったのだ、と言われています。

大林組、真っ先に自主申告も刑事訴追免除されぬ可能性も 課徴金、免除でなく30%減額

 

どういうことでしょうか?

 

課徴金の「免除」(=100%減額)を受けるためには、「調査開始日」より前に、公正取引委員会に自ら独禁法違反を報告する(つまり自首する)必要があります。

ここで、「調査開始日」とは、基本的には、公正取引委員会による独禁法違反の検査や捜索・差押が行われた日のことを言います。これがポイントです。

 

産経記事によれば、平成29年12月8日から9日にかけて、O組は、名古屋市の工事に関する入札不正の疑いで、「偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部の強制捜査を」受けました。

特捜部による偽計業務妨害容疑(刑法犯)の強制捜査です。公正取引委員会による独禁法違反の検査ではありません。
したがって、まだ「調査開始日」前です。

O組は、公正取引委員会の検査(=調査開始)より前にリニア談合の事実を認めて自首すれば、課徴金全額の「免除」を受けることができます。

この段階で、O組は自首(リニエンシー)の覚悟を決めたものと推測されます。

 

ここからは時間との戦いです。

12月10日頃(正確な日付は報道されていません)、O組はまず、「様式1号」と呼ばれる自主申告書類を公正取引委員会にFAXし、リニア談合事件の概要報告を行いました。

「様式1号」だけではまだ自首には足りません。

O組の場合、続けて、「様式2号」と呼ばれる書類を公正取引委員会にFAXし、詳細な事実を報告する必要がありました。
おそらく、O組の社内では、突貫作業により「様式2号」の作成作業が行われていたことでしょう。

 

しかし、作業は間に合いませんでした。
12月18日、公正取引委員会は、O組ほか各社に対し、独禁法違反の疑いで一斉捜索を行いました(特捜部との共同捜査)。
この12月18日が、「調査開始日」となりました。

その後、O組は報告書を完成させ、公正取引委員会に対し詳細な事実を報告しましたが、時すでに遅し。
「調査開始日」より後の報告となってしまったために、「免除」を受けることができず、30%「減額」しけ受けられなかった、というわけです。

 

O組の自主申告が間に合わなかった理由については、私は内部事情を知りませんので、コメントを控えます。

しかし、一般論として言えば、会社が迅速に自主申告を決定し、担当者が迅速に報告のための作業を行えば、10日間で自主申告することは十分可能であったと思われます。

 

迅速な意思決定と報告作業を行うためには、日ごろから、独占禁止法に関する意識を高めておくことが必要です。

実際の報告作業は、弁護士の指導の下で行われることが多いと思われます。ですので、社長や担当者が自主申告の実務について事前に知っている必要はありません。
しかし、独禁法についての意識が高い会社に対しては、弁護士は、制度説明や「至急を要すること」の説明を省くことができます。
そのような会社では、迅速な意思決定と報告作業が実現し、結果として、「免除」を受けられる可能性が高いのではないかと思われます。

 

以上

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