コラム

事務所を移籍したら芸名を名乗れない!?~能年玲奈さんと加勢大周さんの場合

 

令和4年12月8日、「歌手の愛内里菜さんは所属事務所を離れた後も芸名を名乗ることができる」旨の判決が東京地方裁判所でありました。

芸名「愛内里菜」の使用可能 地裁 – Yahoo!ニュース

芸能人の芸名使用問題については、以前にコラムを書いたことがあります。参考になればと思い、再掲します。

このコラムでは、私は、契約終了後の芸名使用を制限する条項は「一概に無効とはいえない」と書きました。

しかし、今回の東京地裁が指摘したように、「無期限に」芸名使用を制限した場合には、無効になる可能性が高いでしょう。

芸名の使用制限には、合理的な期間制限を設ける必要がありそうです。

 

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(初出:2016年7月22日)

事務所を移籍したら芸名を名乗れない!?~能年玲奈さんの場合と加勢大周さんの場合~

ちょっと前に能年玲奈さんが「のん」に改名するというニュースが流れましたが、週刊文春によれば、それは前所属事務所との契約が原因だったようです。

 

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160720-00006387-sbunshun-ent

「能年玲奈 改名の陰に前事務所からの“警告書”」(週刊文春 配信)

 

記事の内容を総合すると、能年さんと前所属事務所との間の契約書には、能年さんが契約終了後に従前の芸名を使用することを制限する条項があったようです。

その条項のせいで、能年さんは、本名であるにもかかわらず、「能年玲奈」という芸名を名乗ることができなくなってしまいました。

 

本名で活動していた芸能人が、事務所の移籍により、本名を名乗ることができなくなったという例は初めて聞いたように思います(あったらスイマセン。)。

 

記事中、千葉貴仁弁護士が、「契約終了後に本名であっても許可なしでは名乗れないというのは、公序良俗違反で契約条項は無効になるでしょう」と述べていますが、私の考えは少し違います。

 

そもそも、能年さんと前所属事務所との間の契約はどんな内容だったのでしょうか。

それを直接知ることはできませんが、似たような過去の事件にヒントがあります。

 

加勢大周さんの事件です。

(東京高等裁判所平成5年6月30日判決・判例時報1467号48頁、東京地方裁判所平成4年3月30日判決・判例タイムズ781号282頁)

 

この事件では、加勢大周さんの前所属事務所が、加勢大周さんに対し、「加勢大周」の芸名を使用して芸能活動を行うことの差止等を求めて提起したものです。前所属事務所が「新加勢大周」(坂本一生)という別のタレントをデビューさせたことでも話題になりました。

(ちなみに「加勢大周」は本名ではありませんでした。) 

 

原審の判決文には、加勢大周さんと所属事務所との「専属契約」の内容が記載されています。その第2条を、一部修正の上、引用します。

 

「第2条 芸名等の使用許諾権

 原告(註:前所属事務所)は、被告(註:加勢大周さん)の芸名「加勢大周」・写真・肖像・筆跡・経歴等の使用を第三者に許諾する権利を有する。

 被告は、原告の許諾なしに右芸名等を第三者に使用させることはできない。」

 

 ちょっとわかりにくいですが、「第三者」は例えばテレビ、雑誌、新聞などのメディアです。ほかの芸能事務所も「第三者」に含まれます。

 

 加勢大周さんの事件の結論を言ってしまうと、前所属事務所の請求は、控訴審で全部棄却されました。つまり前所属事務所の完全敗訴です。

 

よく見ればわかりますが、第2条はたしかに芸名の使用を制限する内容ではありますが、それはあくまで専属契約中の話であって、契約終了後に芸名を使用してはならないとはどこにも書いていないんですよね。

なので、専属契約が終了した後は、加勢大周さんは「加勢大周」という芸名で自由に芸能活動を行ってよい、という判決になりました。

 

 加勢大周さんの第2条に、たとえば次のような条項をつけ加えれば、専属契約の終了後も芸名の使用を制限する内容になります。

 

「第3条

 第2条の規定は、本専属契約の終了後も効力を有するものとする。」

 

 

・・・これで、能年さんと所属事務所との間の契約条項が推測できました。

おそらく、加勢大周さんの第2条に、上記の第3条を加えたような内容でしょう。

 

さて、この契約条項は、公序良俗に反し無効でしょうか?

 

私は一概に無効とはいえないと思います。

 

なぜなら、本名として「能年玲奈」を名乗れなくなることと、芸名として「能年玲奈」を名乗れなくなることは、一応、別の問題です。

 

芸名には、その名称で芸能活動を重ねたことにより発生した顧客集客力等の経済的価値があります。

 

「能年玲奈」という名称には、能年玲奈さんの本名であるという側面と、経済的価値のある芸名であるという側面の両方があります。

 

私は、能年さんと所属事務所との間の契約条項が、あくまで芸名の使用を制限するだけのものであり、本名として「能年玲奈」と名乗ることまで禁止するものでないのであれば、この契約条項を有効と考える余地は十分にあるように思われます。

 

だからこそ、能年玲奈さんは、以後「能年玲奈」という芸名を名乗ることを断念し、芸名を「のん」に改名したのではないでしょうか?

 

 

 

 

 

 

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