コラム

社会常識としての独占禁止法⑦ ~「コンビニ」というパンドラの箱

文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)

 

令和2年9月2日、公正取引委員会は、「コンビニエンスストア本部が加盟店に24時間営業を強制することは独占禁止法違反(優越的地位の濫用(乱用))になりうる」旨の調査報告を公表しました。

公正取引委員会:「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について」
日本経済新聞:「コンビニ24時間強制は『独禁法違反』 公取委が改善要請」

コンビニ加盟店のオーナーの労働環境が劣悪であることは、昔から問題視されていたものの、なぜか、行政はこれまでこの問題に真剣に取り組んできませんでした。

あたかも「パンドラの箱」であるかのごとくです。

今回の公正取引委員会の調査報告は、この問題に正面から取り組んで、一定の成果を示したものとして、大いに評価されるべきであると考えます。

 

さて、コンビニの24時間営業の問題は、「優越的地位の濫用(乱用)」とはなにかを考え、独禁法についての理解を深めるための良い題材であるように思われます。
少し分析してみましょう。

 

まず、コンビニエンスストア本部と、加盟店オーナーとの関係を考えてみましょう。

コンビニエンスストア本部は、加盟店オーナーに対し、「優越的地位」にあるでしょうか。

この点は、「取引依存度」「取引先変更の可能性」という観点が重要です。

加盟店オーナーは、その取引の100%をコンビニエンスストア本部に依存しています。「取引依存度」は100%です。

新規出店の際に、FCのオーナーは、店舗の外観を整えるために、多額の出費を行っています。別のフランチャイズへの外観変更は事実上不可能ですから、「取引先変更の可能性」は実質ゼロでしょう。

どうやら、コンビニエンスストア本部は、加盟店オーナーに対し、「優越的地位」にあるようです。

 

次に、コンビニエンスストア本部が、加盟店オーナーに対し、24時間営業を強制することが、不当な行為なのかどうかを考えてみましょう。

加盟店オーナーは、大手コンビニチェーンと契約し、そのブランドやノウハウを利用することにより、個人商店とは比べ物にならないほど合理的な店舗経営を行うことができています。

その大手コンビニチェーンが「24時間営業」を行うことは、消費者のニーズも高く、オーナー側に「売上」という利益をもたらすという側面があります。

これらの意味で、24時間営業は、必ずしも悪いことばかりではありません。

 

しかしながら、現在のコンビニエンスストアの契約では、加盟店オーナーには、事実上、24時間営業をするかしないかの選択権がありません。

つまり、事実上、24時間営業は加盟店オーナーの義務となっていますから、深夜のパート・アルバイトを確保できない場合、加盟店オーナーが自ら深夜に勤務するほかありません。

公正取引委員会の報告によれば、加盟店オーナーの休日は平均わずか1.8日/月しかないとのことです。

この状況で、オーナーの健康状態への悪影響を否定できる人は、誰もいないでしょう。

 

こうして分析すると、24時間営業の強制は、オーナーの生命身体に過重な負担を強いるものと言わざるを得ず、不当な行為となりそうです。

公正取引委員会の「コンビニエンスストア本部が加盟店に24時間営業を強制することは独占禁止法違反(優越的地位の濫用(乱用))になりうる」旨の報告は、結論において妥当というべきでしょう。

最後に、この事件から学ぶべき教訓は何でしょうか?
それは、「長年の取引慣行や社会常識を疑え」ということです。

 

コンビニエンスストアの24時間営業の問題は、長年にわたり放置されたために、取引慣行が社会常識と化してしまっていたように思われます。

すなわち、

「コンビニは24時間営業するのが常識である。」

と。

オーナーの悲鳴は、その取引慣行や社会常識にかき消され、さらに長きにわたり問題が放置されることとなりました。

いったい、24時間営業の強制は独禁法違反である、と正しく認識できていた日本人が、どれほどいたでしょうか?

 

近時、公正取引委員会は活発に活動しており、これまで適法と思われていた取引慣行に対しても独占禁止法のメスが入っています。

取引の常識を疑い、独禁法の観点から取引慣行を見つめ直すという社会的な姿勢が求められているように思われます。

 

 

 

 

 

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