コラム

社会常識としての独占禁止法⑧ ~カルテル

文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)

 

このコラムでは、かつてはマイナーな法律だった独占禁止法が、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している状況について、お話ししています。

今回は「カルテル」を取り上げます。

 

「カルテル」とは、同一産業の企業同士が、互いの利益のために協議して,価格の維持や引き上げ、生産の制限、販路の制定などの協定を結ぶことをいいます。

このような行為は、企業による不当な市場支配につながり、消費者の利益を損ない、ひいては経済の健全な発展を阻害します。

そこで、独占禁止法はカルテル行為を原則として禁止しています。

刑事上は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。れっきとした犯罪です。

 

「談合」と似ていますが、異なります。

談合は、国や地方公共団体などの入札の場面での行為ですが、「カルテル」は、入札の場面に限られず、およそ価格等をコントロールするすべての行為が規制の対象となります。

まれに、「自分の会社は国の入札をやっていないから、独占禁止法の問題はない。」と勘違いしていらっしゃる方がいますが、間違いです。

 

具体例を挙げましょう。

 

2007年、大手旅行業者5社は、岡山市の公立中学校がその年に実施する修学旅行について、貸切りバス代金の額、宿泊費の額、企画料金の料率、添乗員費用の額の基準を設けることに合意しました。

 

この合意は「カルテル」の典型例です。

公立中学校の側から見れば、どこの旅行会社に依頼しても、旅行業者間で取り決めた基準以上の費用がかかってしまいます。

公正取引委員会による調査の結果、大手旅行業者5社の行為は「カルテル」(不当な取引制限)にあたるとして、排除措置命令が下されることになりました(2009年7月10日決定)。

 

上で例示した「大手旅行業者5社」は、いずれも全国に名を知られた大企業です。社内には相応のコンプライアンス体制があったはずです。

にもかかわらず、どうして「カルテル」が発生してしまったのでしょうか。

 

ヒントは、「岡山市」です。

 

本件は、全国の中学校の修学旅行についてカルテルではなく、「岡山市内の」中学校についてのカルテルでした。

大手旅行業者5社の岡山市の営業所同士が協定を結んだというカルテルだったのです。

 

このことから、本件のカルテルが発生してしまった原因は、

 

①岡山市の営業所(の責任者)に独禁法のコンプライアンス意識がなかったこと

②東京本社のコンプライアンス部門による監督が、岡山市の営業所にまで届いていなかったこと

 

の2点にあるのではないかと推測されます。

 

これを防ぐための方策としては、

 

①たとえば支店長研修などにより、地方営業所の責任者となるべき人材の独禁法意識を高める努力をする。
②本社のコンプライアンス部門の地方営業所に対する監督機能を強化する

 

といったことが必要だったのではないかと思われます。

 

旅行業者5社による修学旅行カルテルは、当時、マスコミにより大々的に報道されました。

いまでも、「カルテルの典型例」として、公正取引委員会のホームページに掲載されています。

 

ひとたびカルテルが発生してしまうと、その風評被害たるや深刻なものであり、10年経っても払しょくされません。

発生する前に未然に防止することが肝要ではないかと思われます。

 

 

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