1. 下請法とは
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、「下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的」としています。
つまり、同法は、大企業の不当な要求から中小企業や個人事業主を守るために制定されています。
2. 下請法改正の背景・趣旨等
近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保が必要です。中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要となります。
例えば、協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押しつける商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し、価格転嫁をさらに進めていくため、下請法の改正の検討がされてきました。
2.施行期日
令和8年1月1日(ただし、一部の規定は本法律の公布の日から施行。)
3.下請法の改正事項の概要
主な改正事項は次の通りです。
(1)「下請」等の用語の見直し【題名、新第2条第8項、第9項関係】
(2)協議を適切に行わない代金額の決定の禁止【新第5条第2項第4号関係】
(3)運送委託の対象取引への追加【新第2条第5項、第6項関係】
(4)従業員基準の追加【新第2条第8項、第9項関係】
(5)面的執行の強化【新第5条第1項第7号、第8条、第13条関係】
4. 「下請」等の用語の見直し【題名、新第2条第8項、第9項関係】
(1) 改正内容
用語について、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」を「製造委託等代金」等に改正されます。法律の題名も、「下請代金支払遅延等防止法」を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改正されます。
(2) 改正理由
本法における「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘があります。時代の変化に伴い、発注者である大企業の側でも「下請」という用語は使われなくなっています。
5. 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止【新第5条第2項第4号関係】
(1) 改正内容
「市価」の認定が必要となる買いたたきとは別途、対等な価格交渉を確保する観点から、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止する規定が新設されます。
(2) 改正理由
コストが上昇している中で、協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりするなど、上昇したコストの価格転嫁についての課題がみられます。そのため、適切な価格転嫁が行われる取引環境の整備が必要となります。
(3) 条文
(委託事業者の遵守事項)
第五条
2 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、第一号に掲げる行為を除く。)をすることによつて、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない。
四 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。
6. まとめ
昨今の中小企業の人手不足が深刻化する中、今回の下請法の改正は、中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保する追い風になます。価格協議が義務化しているので、材料費や人件費の上昇を取引先に誠実に説明すれば、取引価格に反映させられる余地が広がると考えられます。
今回のコラムでご紹介できなかった改正事項については、“2026年1月から“下請法”が変わります その2“で解説します。