文責:弁護士 多田幸生
裁判所の不動産競売で売却される不動産は、一般の仲介物件と比べて安いと言われます。
昔は間違いなくそうでした。しかし、今でもそうでしょうか?
昔は、競売といえば「占有屋」のイメージがありました。
怖い顔のお兄さんたちが建物に居座って出て行ってくれない。
そのせいで、競売にかけても捨て値でしか売れない、というイメージです。
しかし2004年から2005年に民事執行法が改正されると、状況は一変しました。
占有者の排除が容易になり、「占有屋」は姿を消し、競売は危険だというイメージは薄れました。
私は2011年以来、約30件の不動産競売手続を代理しました(普通の弁護士よりかなり多いと思います。)が、占有屋に出会ったことは一度もありません。
2005年法改正の結果、競売は「物件を安く仕入れることができる制度」として人気を博するようになりました。
とくに買い取り業者を中心に、入札者数が増え、落札価格は上昇していきました。
最近、私はある不動産業者の方から、「競売物件はもはや一般仲介と同程度にまで値上がりしていて、うま味がない」という声を聞きました。
競売から撤退する買い取り業者が増えているとも聞きました。
はたして、競売物件は今でも一般の仲介物件より安いのでしょうか???
ある論文に、その答えが書いてありました。
森岡拓郎「競売不動産の価格下落効果の推定」(日本不動産学会誌/第32巻第3号・2018.12)です。
同論文の調査によると、競売物件と一般物件の価格差(下落率)は次のようになっているそうです。
2001年 45%
2006年 25%
2010年 35%
とても興味深いデータです。
改正前の2001年には、競売物件は一般仲介物件より45%下落するのが通常でした。
改正直後(2006年)、下落率は25%まで大幅に改善されました。
しかし、その後、2010年の時点では、下落率は再び拡大し、35%になっているというのです。
(なお2011年以降のデータはありません。)
このデータを私なりに読み解くと、
「改正直後、多くの買い取り業者が押し寄せて競売物件の価額は上昇したものの、その後、撤退する買い取り業者が相次いだために、価額は再び下落に転じた」
というところでしょうか。
いずれにせよ、競売物件が今でも一般仲介物件より安いということは、間違いがないようです。