文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)
このコラムでは、ビジネスシーンで重要性を増している「独占禁止法」について、お話ししています。
今回は、米国で起きた大事件「Apple対フォートナイト」を取り上げます。
まずは事件のおさらいです。
米国のApple(アップル)は、スマートフォンで使うアプリの販売や課金にアップルのシステムを利用するよう義務付け、30%の手数料率を取っています。
2020年8月13日、人気ゲーム『フォートナイト』の開発元Epic Games(エピックゲームズ)は、アップルのやり方は反競争的であり、米国の独占禁止法(反トラスト法)に違反するとして、米国で提訴しました。
アップルは、対抗策として、エピックゲームズの全アプリの配信を停止しています。
「フォートナイト」がApple・Google提訴 課金問題視
米国での事件ですが、「フォートナイト」が登録者数3億5000万人超のモンスターゲームという話題性も相まり、日本でも耳目を集めています。
この事件は、「優越的地位の濫用(乱用)」とはなにかを考え、独禁法についての理解を深めるための良い題材ではないかと思われます。
少し分析してみましょう。
(筆者は日本の弁護士であり、米国法に基づく分析ではないことをお断りします。)
まず、「スマートフォン市場」において、アップルはどの程度のシェアを持っているのでしょうか。
世界的に見ると、トップはサムスン(21%)、2位はファーウェイ(18%)、3位がアップル(14%)です(2019年)。
しかしアメリカ国内に限ると、iOSのシェア率は60%を超えています(2020年)。
どうやら、アップルは、世界市場では独占的な地位にないけれど、アメリカ国内では独占的な地位にあると言えそうです。
そのアメリカ国内のスマートフォン市場において、アップルとエピックゲームズはどのような関係にあるでしょうか。
「フォートナイト」は登録者数3億5000万人超というモンスターゲームであり、月間売上は4000万ドルを超えることもあります。
エピックゲームズ社も巨大企業であり、アップルに対して隷属的な関係にあるとまでは言えません。
しかし、日本の独占禁止法の考え方では「取引依存度」「取引先変更の可能性」という観点が重要になってきます。
まず、エピックゲームズ社のアップル社に対する「取引依存度」はどれくらいでしょうか?
正確にはわかりませんが、単純に考えれば、エピックゲームズはスマートフォン向けアプリを提供しているわけですから、アップルに対する「取引依存度」は、iOSのシェアと同じく、60%超ということになります。
60%は、非常に高い数字です。
次に、エピックゲームには「取引先変更の可能性」があるでしょうか?
ここで、「取引先を変更する」とは、iOSユーザーからの課金を、アップルのシステムを介さずに使わずに行うことになるでしょう。
しかし、報道によると、エピックゲームが独自の課金システムを導入したところ、アップル社から規約違反を理由に全アプリの配信を停止されてしまったとのことです。
どうやら、「取引先変更の可能性」はなさそうです。
このように、取引依存度が高く、取引先変更の可能性がないとなれば、アップルが自社の課金システムを強制して30%の手数料を取っていることは、「優越的地位の濫用(乱用)」違反となる可能性は、十分ありそうです。
「30%」という手数料率については、アップルだけでなく他社も30%の手数料を取っていると報道されており、横並びで同じ数字となっていることの合理性が問題になる可能性もあります。
もちろん、アップル側にも反論がありますので、予断は禁物です。
とくに、「エピックゲームズはアップルの開発ツールやアプリ発信力のおかげで発展してきた」というアップル側の主張には、一理あります。
アップルの課金システムが危険アプリの排除に一役買っており、アプリ利用者の利便に貢献しているという点も、考慮される必要があります。
加えて、米国では日本ほど「優越的地位の濫用(乱用)」の適用が積極的に行われていないという事情も、もしかしたら、結論に影響するかもしれません。
しかし、こと日本の独占禁止法的な観点から分析すると、エピックゲームズ側が勝訴する可能性は十分あるように思われます。そうなった場合、日本のスマートフォンの課金システムにも多大な影響があると予想されます。
裁判はまだ始まったばかりであり、どのような判決が出るか、注目して待ちたいと思います。