コラム

社会常識としての独占禁止法④  ~急成長企業の落とし穴

文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)

 

独禁法の「優越的地位の濫用」を犯してしまいがちな会社はどのような会社でしょうか?
それは、急成長した会社です。

G社は1988年創業のドラッグストアチェーンです。
個人経営の薬局からスタートし、中部・北陸地方を中心に次々にチェーン店舗を増やしていき、現在(2020年8月)では計296店舗を経営しています。
2003年JASDAQ上場。2010年東証二部上場。2011年東証一部指定。
まさに絵にかいたような急成長企業です。

 

そのG社に対し、公正取引委員会が立ち入り検査を行ったのは、2018年10月のことです。

嫌疑は「優越的地位の濫用」でした。
どのような嫌疑だったかは、公正取引委員会のホームページに公表されています。

7つあります。

斜め読みで構いません。是非、お読みください。

 

① G社は、納入業者に対し、新規店舗の開店等の際の棚卸作業員を、無償で派遣させていた。
② G社は、納入業者に対し、理由なく、自社のクリスマスケーキやお節料理を購入させていた。
③ G社は、納入業者に対し、キャンペーンの際に「キャンペーン協賛金」を要求した。
④ G社は、納入業者に使わせている自社の物流センターの使用料金を、理由なく値上げした。
⑤ G社は、納入業者に対し、納入業者に使わせている商品搬入用ケースについて、貸出料を要求していた。
⑥ G社は、納入業者に対し、納入商品のバーコードラベルの印刷代を要求していた。
⑦ G社は、納入業者に対し、売上不振で在庫となった季節品の一方的な返品に応じさせていた。

 

いかがでしょうか。これを読んで、他人事だと思いますか?

 

「私の会社でも、それに近いことをやっている」

 

と思われた方は、意外に多いのではないでしょうか。

当職には、G社の7つの行為は、とても優秀な経営者が、納入業者との交渉に辣腕を振るい、あの手この手で原価や費用の削減などに努めた結果であるように見えます。

 

交渉に辣腕を振るい、原価や費用の削減に努めることは、悪いことでしょうか?

いいえ、経営者としては間違いなく良いことです。そうでなくては会社を成長させることはできません。

しかし、会社の成長に伴い、「取引先との交渉が楽になって来たな」と感じるようになってきたら、要注意です。

成長した会社は、ある時期から、取引先に対し「優越的な地位」に立ちます。

経営者は、零細な取引先が、自社の要求を断りにくくなっていることに気づきません。

そうして、取引先に厳しい要求を呑ませたとき、公正取引委員会から、「優越的な地位を濫用した」と認定されてしまうのです。

 

急成長してきた会社は、優秀な経営者や営業マンが、会社の利益のために、交渉に辣腕を振るい、あの手この手で原価や費用の削減に努めてきた会社です。

これまで大きな事故を起こさずに来たのは、ラッキーでした。

しかし、会社の規模が大きくなったら、経営者や営業マンは、規模に見合ったコンプライアンス(法令遵守)の意識を持たなければなりません。

でなければ、いずれ大きな事件につながります。

特に、独禁法の「優越的地位の濫用」は、急成長企業の落とし穴です。

公正取引委員会のホームページ(前掲)によれば、G社は「優越的地位の濫用」の代償として、納入業者に合計1億4000万円を支払うことになりました。

急成長企業が落とし穴に入った典型的な一例と思われましたので、ご紹介しました。

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