コラム

社会常識としての独占禁止法⑪「共同の取引拒絶」 ~田沢ルールをヒントに~

文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)

 

このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。

今回は「共同の取引拒絶」を取り上げます。

 

「共同の取引拒絶」は独占禁止法が禁止する行為(不公正な取引方法)の一つです。

簡単に言うと、「同一産業の事業者が申し合わせて、特定の取引先との取引を拒絶してはならない。」というルールです。

 

このような行為は、市場支配力を行使して特定の取引先の取引機会を奪い、市場から排除する行為にほかならず、自由競争を損ないます。

そこで、独占禁止法は原則として「共同の取引拒絶」を禁止しています。

共同の取引拒絶は、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令の対象となり、また、裁判所から差止めを受ける可能性があります。

 

令和2年には、日本プロ野球の「田沢ルール」が共同の取引拒絶に当たる可能性があるとして廃止されたことが、話題になりました。

(参考)

 社会常識としての独占禁止法⑩ ~プロ野球「田沢ルール」はなぜ廃止されたか~

 

以下は、公正取引委員会のHPに掲載されている共同の取引拒絶の具体例です。

A県のタクシー会社21社は、かねてから、低額な運賃を宣伝しているB社に乗客を奪われていることに不満を持っており、21社で申し合わせて、A県のタクシーチケット事業にB社が参加できないようにしていました。

A県でタクシーに乗ろうとする乗客は、B社のタクシーに乗った時だけ、タクシーチケットを使用できず、不便です。
となると、タクシーチケットを持っている乗客は、B社のタクシーを避けるようになるかもしれません。

 

公正取引委員会による調査の結果、21社の行為は「共同の取引拒絶」に当たると認定され、排除措置命令が下されました(平19年6月25日決定)。

 

このように、「共同の取引拒絶」は、廉売業者を業界から排除するために行われることがしばしばあります。

B社が低額な運賃を設定して乗客を集めることは、価格の自由競争にすぎません。

しかしながら、より高額の21社からすると、価格競争により運賃が下がることは歓迎できません。

価格を守るために、あの手この手で、B社を市場から締め出そうと考えるわけです。

その一手が、「21社で運営するタクシーチケット事業からのB社の締め出し」でした。

上手くいっていれば、B社は顧客が減って立ち行かなくなり、A県のタクシー事業から撤退していたかもしれません。

すなわち、A県から「価格の自由競争」が失われていたかもしれません。

価格の自由競争が失われると、B社だけでなく、A県の県民全員が不利益を受けます。

だから、独占禁止法は「共同の取引拒絶」を禁止しているのです。

 

「共同の取引拒絶」は摘発事例も多く、企業が守るべきビジネスルールとして重要です。

本コラムをお読みの方々は、自社が、「21社」の側に立つ可能性と、「B社」の側に立つ可能性の両方があることに、注意されるべきでしょう。

 

ある業界に対し、価格競争を仕掛ける側の場合、「B社」の立場です。

自社が業界においてなんらかの不利益を受けるときには、それが他社による「共同の取引拒絶」のせいではないかと疑い、法的な対処を検討するべきでしょう。

 

他方、価格を守る側の場合は、「21社」の立場です。

弁護士としても、価格競争により業界の構造が変わってしまうような場合に、業界単位で防衛を模索する必要があること自体は理解します。

付加価値やサービスを向上させて価格を維持することは、何の問題もありません。

しかしながら、悪気がなくとも、創意工夫が行き過ぎ、廉売業者に不当な不利益を課す結果となったらアウトです。

排除措置命令や課徴金納付命令を避けるために、時には立ち止まること必要でしょう。

 

 

 

 

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