文責:弁護士 多田幸生
初出:株式会社バリューアップジャパン様HP (valueup-jp.com)
1 ついに始まる和製「秘匿特権」制度
令和2年12月25日、和製「秘匿特権」制度が始まります。
これは、カルテルや談合の疑いで公正取引委員会から調査を受けた企業が、弁護士との相談内容を開示しなくてよい、という制度です。正式名称は「判別手続」と言います。
海外では、弁護士との相談内容を秘匿する権限「秘匿特権」は、企業側の防衛権として幅広く認められています。
しかし日本では、これまで秘匿特権が認められていませんでした。そのため、公正取引委員会の調査(立ち入り検査)が始まると、会社が捜査について弁護士に相談した内容(書面やメール)も、調査対象となってしまっていました。
「これでは、会社は捜査についての助言を弁護士から受けることができない」という批判があり、今回、ようやく導入に至ったという次第です。
秘匿特権の要件や手続は法令で厳格に定められており、これを守らなければ秘匿特権を行使できません。
いざというときのために、制度のイメージや勘どころを知っておく必要があります。
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2 和製秘匿特権の利用シミュレーション ~実例イメージ
公正取引委員会による立ち入り検査が始まり、審査官から「この資料を提出するように。」と命令を受けました。
さて、あなたは秘匿特権を行使することができるでしょうか?
まずは嫌疑を確認しましょう。
「カルテル」や「談合」などであれば、秘匿特権を行使することができます(「不当な取引制限」と呼ばれる違反類型です)。
「私的独占」や「不公正な取引方法」(ex.優越的地位濫用(乱用))の場合は、秘匿特権を使えません。
秘匿特権を使える場合、審査官に対し、口頭で、「その資料は『判別手続』の対象となるものなので、判別手続を利用したい」と伝えましょう。
そして、その旨を記載した申出書(書面)を急ぎ作成して、審査官に提出しましょう。
秘匿特権を行使した場合でも、いったんは、その資料を公正取引委員会に提出する必要があります。
ただし、公正取引委員会は、資料に封をした形で持ち帰って保管(留置)するだけです。資料の中身は見ません。
その後、会社は、提出命令から2週間以内に、資料(特定通信)ごとに必要な事項を記載した概要文書を作成して、公正取引委員会に提出します。
すると、公正取引委員会内で、その嫌疑の調査に携わらない職員が、対象となる文書かどうかを審査します。
問題がなければ、会社に資料が還付されます。
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3 和製秘匿特権の勘どころ ~事前準備が全て!!!
和製秘匿特権(判別手続)を活用したい企業は、事前準備が肝要です。
例えば、秘匿したい書類ファイルの背表紙、メールの件名、電子データのファイル名などにはすべて「公取審査規則特定通信」などと表示しておかなければなりません。
また、書類は法務部門の書架に入れるなど、他の資料と区別して保管しておかなければなりません。
要は、秘匿特権の対象となる資料をそれ以外の資料と区別すればよいのですが、法令で定められた手順に従わなければなりません。
公正取引委員会の立ち入り検査が始まってからでは不可能です。秘匿特権を行使できるかどうかは、事前準備によって決まると言ってよいでしょう。
法務部門の担当者は、談合やカルテルについて、弁護士にメールで相談するときには、件名やファイル名に気を配る必要があります。
紙の書類については、ファイルの背表紙やファイルの保管場所などに気を配らなければなりません。
なお、社内弁護士(インハウス弁護士)に対し、談合やカルテルについての相談をすることもあると思われます。
しかし、社内弁護士へのメールについては、「会社からの独立性がない」との理由により、事実上、秘匿特権をほとんど行使できないと言われています。この点も注意が必要です。