コラム

【不動産】日照権侵害についての法律相談の難しさ

住宅系の法律相談をお受けしていると、「隣地に立つ建物により、日照権を侵害される」という趣旨の法律相談を受けることがしばしばあります。
日照権の法律相談は、難しいご相談になることが多いと認識しています。

以下、ご説明します。


人は、住宅の所有権ないし人格権に起因する「日照権」を有します。
私法上、隣地の建物が作る日陰が違法かどうかは、その日影が「受忍限度」を超えているかによって判断されます。
いわゆる受忍限度論です(最高裁昭和47年6月27日)。

ところが、行政法上は、「建築基準法」という法律が、建築確認時の日影規制について定めています。
隣地の計画が建築基準法上の日影規制に違反していない場合、「隣地の日影は受忍限度を超えている」という主張が極めて難しくなります。
なぜなら、そのような主張は、「建築基準法の日影規制は間違っている/不十分だ」と主張するようなものだからです。
不可能ではないかもしれませんが、極めて難しい。


と、いうわけで、争点(法律相談を受けている弁護士の関心)は、
「隣地の計画は、建築基準法上の日影規制の対象となるだろうか???」
「仮に対象になるとして、日影規制違反はあるだろうか???」
という行政法上の争点に、移っていきます。

建築基準法上の日影規制の対象となる建物は、おおざっぱにいうと、
・軒高7m超/地上3階以上の建物
・高さ10m超の建物
です(仔細は割愛します。)。

ここで、たとえば、建物の高さ的に、日影規制の対象となることが明らかであるにもかかわらず、ずさんな建築会社が日影図すら作成していない、というような場合であれば、弁護士としての助言は容易です。

・まずは建築主に対し、日影図の提示を求める。
・弁護士が、建築主との協議に立ち会う。
・日影規制違反を確認できた場合は、工事の中止や内容変更を要請する。
・建築主が応じない場合は、工事を差し止めるために、仮処分を申し立てたり、訴訟を提起したりする。

といったことです。

 


しかしながら、建築主が日影図を作成しており、その図面上は建築基準法に違反しないように見える場合には、法的な助言が困難になってきます。

なぜなら、建築基準法の日影規制の細目は、地方自治体が定める条例に委任されており、市町村ごとに異なります。
この条例規制を逐一把握している弁護士など、建設会社専従の弁護士でもない限り、存在しません(断言)。

相談者が法律相談の場に「日影図」などの業者作成資料を持参された場合には、資料を拝見します。
しかし、弁護士の能力の限界により、その図面の誤りを発見することができません。

私も、頑張って拝見するのですが、図面の誤りを発見できたことはありません。


そういった次第でして、日影図上、建築基準法に違反しないように見える場合には、
「本件は裁判で争うことは難しいように思う。」
といった回答になりがちです。

それでも、当該相談事例の特殊性などをお聞きして、
「本件の日影は受忍限度を超え、違法だ」
と言えないかどうかを模索していくことになります。

例えば、当方の建物の特殊性(用途・社会的価値など)を強調していくことが考えられます。
日照被害の程度については、建築基準法は「冬至日の」日影時間しか規制していませんので、「冬至日以外でもこれだけ日陰になり、建物の用途や社会的価値を損なうのだ」と強調していくことが考えられます。

主張としては、かなり高度な内容になります。

コラムの冒頭で「日照権の法律相談は難しい」と述べた所以です。

 

参考

東京都「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」

港区「建築物の用途・高さ等の規制についてのご案内」

 

 

 

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