文責:弁護士 多田幸生
前回のコラムの続きです。
8 周辺施設(嫌悪施設)についての説明義務
初回コラムで述べたとおり、新築住宅の売主は一般に宅建業者であり、買主に対し説明義務を負っています。
周辺施設、とくに嫌悪施設の有無についても、一定の範囲で説明義務を負います。
「嫌悪施設」の定義はありませんが、例えば、騒音、振動、煤煙、臭気(悪臭)等を発生させる施設、生命身体に対する危険を発生させる施設、心理的に忌避される施設などについては、説明義務を負うことが多いと思われます。
<例>
高速道路、飛行場、鉄道、工場、下水道処理場、ごみ焼却場(資源化センター)、ガスタンク、ガソリンスタンド、高圧線、危険物取扱施設、原子力発電所、暴力団組事務所、墓地、刑務所、風俗店、葬儀場、火葬場など
いかなる施設が「嫌悪施設」に当たるかという判断は、非常に悩ましいものがあります。
例えば、公衆浴場(銭湯)は、一般には嫌悪施設ではないでしょう。
しかし、もし、その銭湯に大煙突があり、毎日排煙しているとしたらどうでしょうか。
煙突からの排煙は近隣の居住環境に少なからぬ影響を与えますから、嫌悪施設になる可能性がないとは言えません(東京地判平12.10.30)。
距離も大事です。
たとえば、銭湯の煙突から50m離れていればどうでしょう。銭湯の排煙は通常さほどの量ではありませんから、50mも離れれば、居住環境への影響がほとんどなくなり、説明義務を負わないかもしれません。
では、化学工場の煙突ならどうでしょう。50m離れているからと言って、居住環境に影響がないとはいえず、説明義務を負うかもしれません。
結局、個別の事情に即した判断が必要になります。一概に言うことはできません。