令和3年民法改正(2023年4月1日施行予定)により、相隣関係の規定が変わりましたので、ご紹介します。
1 隣地使用権
(1)使用目的の拡張
隣地使用権とは、土地の所有者が、一定の目的であれば、他人が所有する隣地を使用できるとする権利のことです。
改正前から、「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため」であれば、隣地を使用できると定められていましたが、必ずしも明確でなく、権利を使いにくい側面がありました。
令和3年改正民法は、次の目的であれば隣地を使用できると定め、使用目的を明確にし、また、拡張しました。
①境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
②境界標の調査又は境界に関する測量
③改正後民法233条3項の規定による越境した枝の切取り(民法233条については後述します。)
(2)権利の性質の明確化
改正前の条文は「隣地の使用を請求することができる」という文言だったので、たとえば隣人が行方不明の場合などに、隣人の承諾なしに隣地を使用できるのかが明確でありませんでした。
(実務的には、行方不明の隣人を被告とする訴訟を提起し、「承諾に替わる判決」を得るという対応をしていましたが、煩雑でした。)
令和3年改正により、条文は「隣地を使用することができる」と改められましたので、隣人の承諾なしに隣地を使用できることが明確になりました。
2 電気、ガス、水道等の各種ライフラインのための隣地使用権
令和3年に改正される前の民法には、電気、ガス、水道等の各種ライフラインのために隣地を使用できるか否か(隣地使用権があるか否か)について、規定がありませんでした。
多数説・実務では、他の規定(民法210条、下水道法11条)の類推適用により隣地使用権を認めるべきとされていました。
しかし、ライフラインの設置は掘削等の工事を伴います。隣人が承諾しないときに、隣人に対しこの工事を強制することが事実上困難であるという問題がありました。
そこで、令和3年改正民法は、各種ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、償金等を支払うことにより、他の土地等にその引込みのための設備の設置等をすることができると定め、ライフラインのための隣地使用権を明文で定めました。
(民法213条の2第2項、第5項、213条の3)
なお、電気、ガス、水道だけではなく、電話・インターネット回線などの電気通信についても、隣地をすることができるとされています。
(「その他これらに類する継続的給付」に該当すると説明されています。)
3 越境枝の切り取り
(1)越境枝を自ら切り取る権利
民法は、隣地の竹木の枝が境界線を越える(越境する)ときは、その竹林の所有者に、その枝を「切除させることができる」と定めています(民法233条1項)。
「切除させることができる」とありますので、竹林の所有者に対し切除するよう請求できるだけであり、自分で越境枝を切除することはできません。
そのため、隣地所有者が切除しない場合には、実務上、訴訟により判決を得て強制執行するほかありませんでしたが、煩雑であるとの批判がありました。
そこで、令和3年改正民法は、次の場合には、自ら越境枝を切除することができると定めました。
①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
②竹木の所有者を知ることができず又はその所在を知ることができないとき
③急迫の事情があるとき
(2)竹林が共有の場合について
竹林が共有地の場合、改正前の民法の解釈では、原則として共有者全員の同意がなければ越境枝を切除できないとされていました(越境枝の切除は「共有物の変更」に該当するからだ、と説明されていました)。
しかし、隣地所有者から切除請求をされている状況で、共有者全員の同意を得られないとの理由で切除を免れることができるのは不合理です。
そこで、令和3年改正民法は、竹林が共有地の場合、各共有者が単独で越境枝を切除できると定めました。
4 改正法の施行日
ご説明した令和3年民法改正は、令和5年4月1日から施行されることになっています。
令和5年3月31日までは、改正前の条文により対応することになります。
以上