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バリューアップジャパン様HPに、拙稿「社会常識としての独占禁止法83 「Windows」から「Teams」へ ~マイクロソフトと私的独占の歴史~」を公開いたしました。
本HPではその概略をアップいたします。
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1 マイクロソフトの復活
マイクロソフト社は、パソコンからスマートフォンへの変化の機を逃し、衰退したと言われていましたが、近時、復活を遂げつつあります。
OSを基幹事業とするのを止め、クラウドコンピューティングに事業の基軸を転換したのが奏功したと言われます。
完全復活を遂げたマイクロソフト社は、かつての全盛期と同じように、「私的独占」の問題を抱え始めています。
2 1990年代のWindowsによる私的独占
1990年代、マイクロソフト社は米司法省から独禁法違反(私的独占)により訴えられ、一時は会社分割命令も出されました(最終的には和解)。
当時問題になったのは、マイクロソフト社が、圧倒的なシェアを誇るパソコン用OS「Windows」を背景に、ワープロソフト「Word」や表計算ソフト「Excel」などの抱き合わせ販売をする、という手法でした。
日本でも独禁法違反(抱き合わせ販売)として摘発されました。今でも、市場独占の参考例として、公取委のHPに記載されています。(第2 4(3))
3 Teamsの抱き合わせ販売は私的独占?
2020年代に入り、復活したマイクロソフト社は、かつてと同様に私的独占の批判を受けつつあります。
業務ソフト「マイクロソフト365」に、会議アプリの「Teams(チームズ)」のセット販売を抱き合わせて販売しているのかではないか、という批判です。
構図だけ見ると、「2」でご紹介したExcelとWordのセット販売と全く同じ構図です。
昨年、米国スラック社が「抱き合わせ販売ではないか」と抗議し、EUの欧州委員会が調査を開始しました。
そうしたところ、令和6年4月1日、マイクロソフト社は、企業向けのマイクロソフト365からTeamsを分離する料金体系を発表しました。
独占批判の先手を打った形です。
4 巨大IT企業の抱き合わせ販売は「排除型」私的独占につながる
マイクロソフト社の今回発表に、1990年代の苦い経験が生かされていることは間違いないでしょう。
しかし、同様の経験をしていないほかの巨大IT企業はどうでしょうか。批判を厭わず、私的独占へと突き進んでいた可能性がないとは言えません。
私的独占とは「不当な手段によって市場を独占したり、独占状態を維持・強化してはならない。」というルールです。
巨大IT企業が、圧倒的な市場シェアを背景に、新しいアプリやソフトウェアの抱き合わせ販売を行うことは、「排除型」の私的独占に該当し得ます。
排除型私的独占は、課徴金が課されるだけでなく、「五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金」の刑罰があります。れっきとした犯罪行為です。
近時、日本でも公取委が「排除型私的独占」をターゲットとする個別のガイドラインを定めるなど、監視の目が強まっています。
IT業界では、今も技術革新が進んでいます。今後は、クラウドやAIを軸に、ビジネスソフトを有機的に連携させる新サービスが生まれるのではないか、などと言われています。
新サービスが生まれるところに「抱き合わせ販売」ありです。注視しなければなりません。
以上