「建物の合体」をご存じでしょうか。
2つの建物の中間をつなぐなどして1つの建物を作出し、合体登記することを言います。
数は多くありませんが、増改築などに伴い、しばしば発生します。
建物の合体は、「民法の所有権とは何か」を考えるうえで最良の教材の一つであり、頭の体操としても面白いので、以下、ご紹介します。
まずは軽めの質問。
Q
建物甲をAさんが所有し、建物乙をBさんが所有しているとき、所有権の数はいくつでしょう?
A
簡単ですね。答えは、
「建物甲(Aさん)の1個と建物乙(Bさん)の1個で、合計2個」
です。
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では次の質問。
Q
建物甲と建物乙の中間をつないで合体させ、一個の建物丙を作出し、合体登記をしたとき、所有権はいくつになるでしょう?
A
急に難しくなったと思いませんか?
弁護士でも、自信をもって答えられない人がいるかもしれません。
答えは、
「1個」
です。
民法上、所有権の客体は「物」(ここでは建物)です。
合体前の建物甲と建物乙は、合体により「一個性」を失い、一個の建物丙に変わります。
だから、所有権の数も2個から1個に減るわけです。
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さらに質問。
Q
合体前のAさんの所有権とBさんの所有権は、一体どうなったのでしょう?
A
とても難しい質問です。
実は、民法(実体法)はこの点について、何も規定していません。
しかし、1個の所有権をAさんとBさんとで分け合うのだから、共有になると考えるのが一番自然でしょう。
最高裁判所もそのように考えています。
<最高裁判所の考え方>
「互いに主従の関係にない甲、乙二棟の建物が、その間の隔壁を除去する等の工事により一棟の丙建物となった場合、主従関係のない動産の附合に関する民法244条の類推適用により、甲乙建物の各所有者は、甲乙建物の各価格の割合に応じて丙建物を共有することとなる。」 ※ 最判平成6・1・25(民集48.1.18)の調査官解説より。 |
合体前にAさんとBさんが持っていた所有権は、合体により、丙建物の共有持ち分に変化します。
合体後の丙建物は、AさんとBさんの共有建物として登記されることになります。
なお、持分割合については、最高裁は、合体前の甲乙建物の各価格に割合に応じて決まるとしています。
これはごく大雑把な考え方であり、実務的にはもう少し細かな配慮が必要です。
特に、甲建物と乙建物をつなぐ「増築部分」については、必ず配慮しなければなりません。
自治体(市町村役場)に赴き、増築部分の評価見積額の算定を依頼することが多いと思われます。
そして、増築費用を負担した者が増築部分の価額相当の持分を取得したものとして、処理することになります。
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それでは最後の質問です。
Q
合体前、Aさんの甲建物とBさんの甲建物にそれぞれ抵当権が設定されていた場合、合体後に抵当権はどうなるでしょうか?
A
これも難しい質問ですが、最高裁判所は、次のように考えているようです。
<最高裁判所(※)の考え方>
「民法247条2項の類推適用により、抵当権は対応する共有持分上に移行して存続する。」 (※)最判平成6・1・25(民集48.1.18)の調査官解説より。 |
まだまだ深堀できますが、このあたりでやめておきます。
建物の合体については、民法の規定に不備が多く、法改正による抜本解決を期待したいところです。
建物の合体に携わる実務家は、主に土地家屋調査士(まれに司法書士と弁護士)と思われます。
お勧めの良著がありますので、興味を持たれた方は、ぜひお読みください。
山田一雄・梶原周逸編著「新版建物合体登記の実務」日本加除出版