文責:多田幸生
私は長年不動産法務に携わっていますが、「境界標の設置作業」自体を目にしたことは実はほとんどありません。
と、いうのは、境界標の設置作業にはかなりの時間がかかります。
境界紛争などで、境界確認のために現地で立会いをする場合でも、境界標自体は、土地家屋調査士が事前に設置を済ませておくのが通常です。
土地所有者(や弁護士)は、すでに設置された境界標の周りに集まり、境界標の位置に問題ないことを確認するのみです。設置作業自体を目にする機会はほとんどないのです。
これではいけないと思い、先日、土地家屋調査士にお願いして、「境界標の設置作業」を見学させていただきました。
目から鱗の連続でした。
境界紛争に携わるすべての弁護士は、「境界標の設置作業」の実際を知っておくべきだと思いましたので、以下、簡単に記します。
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<境界標の設置方法>
境界標は、長さ50センチメートルほどの石の杭です。
土地家屋調査士は、測量により境界点を見定めると、その位置に深さ50センチメートルほどの穴を掘ります。
穴を掘り終わったら、穴の底に若干のモルタルを流し込み、石の杭をモルタルに刺して、位置を微調整します。
杭の位置が決まったら、穴にセメントを流し込んで、完成です。
境界標は、杭の頭だけが地表に露出した状態になります。
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我々がまず認識しなければならないことは、「境界標の設置は手作業である。」という事実です。
測量機器を用いて行う測量自体は、正確です。
しかし、穴を掘って杭を固定する作業は手作業であり、その正確性は、土地家屋調査士の一人一人の土木技術に委ねられています。職人技の世界です。
腕のある人なら良いですが、数ミリ程度の誤差は日常的に生じているのではないでしょうか?
我々が次に認識しなければならない事実は、「境界標は50センチ掘れば取り出せる。」ということです。
スコップで50センチ掘れば、境界標を包むコンクリート塊の最下部に到達します。
コンクリート塊ごと掘り出すことは容易です。
少し位置をずらしてコンクリート塊を埋め戻せば、境界標の位置を簡単に動かすことができます。
以上の事実は、「境界標は、悪意をもってこれを動かそうとする人に対しては無防備である。」ということを意味します。
すなわち、境界標は動くことがあるのです。
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