今回は地役権を紹介します。
1 地役権とは
地役権は、自己の土地の便益のために他人の土地を使用する権利です。
便益を受ける土地を要役地、地役権を負担する土地を承役地といいます。
地役権は要役地から公道にでるために承役地を通行することに利用されることが多いです(通行地役権)。
自分の土地に水道管を引くのに隣接地の地下を通す必要がある場合にも、利用されます(導管地役権)。
その他、自分の建物の日当たりや眺望を確保するために、「眺望地役権」という特殊な地役権を設定することもあります。
地役権は、要役地の所有権の従たる権利という点に特徴があります。つまり、要役地の所有権が移転すれば地役権も移転します。
2 地役権の設定方法
地役権は、要役地の所有者と、承役地の所有者の間の契約によって、設定します。
口約束だけでも有効です。しかし、口約束だけでは後々のトラブルの原因になりやすいため、契約書を作成することが推奨されます。
特に通行地役権はトラブルが多いですので、可能ならば、登記まですることをお奨めします。
3 黙示の地役権設定契約?
黙示の地役権設定契約とは、「明確な口約束はないけれど、長年にわたってその土地を通行しており、その間相手方から異議を述べられたことがないのだから、黙示に地役権を認めていた」というような主張です。
しかし、このような黙示の地役権設定契約が認められるためには、下記の裁判例の要件を満たす必要があり、ハードルは低くありません。
<ご参考:東京高裁昭和49年1月23日判決>
この裁判例によれば、黙示の通行地役権契約契約が成立するためには、「通行の事実があり通行地の所有者がこれを黙認しているだけでは足りず、さらに、右所有者が通行地役権または通行権を設定し法律上の義務を負担することが客観的にみても合理性があると考えられるような特別の事情があることが必要」とされています(下線強調は筆者)。 |
4 通行地役権の時効取得?
通行地役権の時効取得とは、「長年(20年ないし10年)にわたりその土地を通行し続けてきたのだから、民法283条(地役権の時効取得)により、通行地役権を時効取得したはずだ」というような主張です。
しかし、時効取得が認められるためには、以下の最高裁判決の要件を満たす必要があり、こちらもハードルは低くありません。
<ご参考:最判昭和30年12月26日。最判昭和33年2月14日>
最高裁の判例は、「いわゆる『継続』の要件(注:上記民法283条の要件です)として、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路の開設を要し、その開設は要役地所有者によつてなされることを要する」。 と判示しています。 つまり、長年にわたり土地を通行し続けるだけでは、時効取得は認められません。 どの程度の行為があれば、他人の土地に自分で通路を開設したと認められるか、について判示した最高裁の判例はありません。 ただ、事例判決(ex.最判平成6年12月16日)を見る限りでは、その通路の開設・維持管理等について、何らの費用支出も負担もしていないという場合は、時効取得が認められることはなさそうです。 |
5 地役権の不動産登記の具体例を記載します。
<承役地の登記>
権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項) | |||
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
1 | 地役権設定 | 令和○年○月○日
第○○○○号 |
原因 令和○年○月○日設定
要役地 ○市○町○番 目的 通行 範囲 東側○平方メートル 要役地 ○市○町○番 令和○年○月○日登記 |
<要役地の登記>
権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項) | |||
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
1 | 要役地地役権 | 余白 | 承役地 ○市○町○番
目的 通行 範囲 東側○平方メートル 令和○年○月○日登記 |